スーパーやコンビニなどで、商品のバーコード読み取りから会計処理までを自分で行うセルフレジが普及しつつあります。しかし、レシートは紙で受け取るのが一般的です。改正電子帳簿保存法により、企業ではペーパーレス化が求められているものの、レシートを電子化するには、紙で受け取りスキャンする手間が必要です。
そこで、今回はレシートの電子化を容易にする電子レシートについて、その概要や利用のメリット・デメリット、企業で電子化を進めるうえで欠かせないポイントを解説します。企業の経理部門や情報システム部門で電子化を進める担当者の方、または個人の方もぜひ、参考にしてください。
目次
電子レシートとは
電子レシートとは、これまで紙で発行されていたレシートを電子化したものです。消費者側は、購入した商品や価格、税額、購入日などをスマートフォンで確認できるため、財布がレシートでいっぱいになってしまうことはありません。また、店舗側もレシート用紙を用意したり、レジに設置したりする手間が省けます。
電子レシートの普及状況
2017年に、経済産業省による電子レシートの実証実験が行われました。その際のユーザーアンケートでは、電子レシートは「とても使いやすい」と「使いやすい」の合計が72%と、電子レシートに対して前向きな感想を持つ人が多い結果となりました。
その後経済産業省により、「IoT等を活用したサプライチェーンのスマート化」を目的とした取り組みの一つとして2018年に電子レシートフォーマットが公開されました。
引用元:IoT を活用した新産業モデル創出基盤整備事業 /IoT の社会実装推進に向けて解決すべき新規課題に関するシステムの開発 /電子レシートの標準データフォーマット及び API の研究開発|経済産業省
そして、この標準フォーマットを基にいくつかの電子レシートサービスが開始されました。なかでも2019年9月にサービスを開始した東芝テックが開発・運営を行う「スマートレシート」は、2022年10月に会員数100万人突破。さらに2023年9月には150万人を突破し、導入店舗数も15,000店舗を超えています。
引用元:電子レシートサービス「スマートレシート®」 会員数150万人を突破! | 東芝データ株式会社
また、全国に支店を持つスーパーマーケットチェーン、「イオン」でも2023年10月に同社が提供するトータルアプリ「iAEON(アイイオン)」で電子レシートの提供を開始。最初は一部地域の店舗のみだったものの、2024年6月21日から順次対応店舗を拡大し、イオングループ19社、約4,000店舗で提供を行うと発表しました。
ほかにも、複数の企業や店舗が電子レシートのサービスを開始し、少しずつではあるものの、普及し始めています。
一般的な電子レシートの使い方
ここで電子レシートの一般的な使い方について解説します。電子レシートには主に2種類あります。ひとつは、前述した東芝テックによる提携スーパーや飲食店、ドラッグストアなどで共通して使えるもの。そしてもうひとつは、iAEON(アイイオン)のように系列店限定で使えるものです。
どちらもまず、スマートフォンで専用のアプリをダウンロードし、会員登録をします。そして、対応店舗で買い物をして決済の段階でアプリに表示されるバーコードを店員にスキャンしてもらえば電子レシート発行完了です。
レシート内容の確認もアプリから行え、種類によっては、PDF形式でメール送信したり、tsv形式で一括出力することもできます。
電子レシートを利用する側のメリット
電子レシートを利用するメリットは、個人、企業にかかわらずいくつもあります。ここではそのなかでも主な3つのメリットを見てみましょう。
レシート管理が効率化される
個人の場合、紙のレシートで財布がいっぱいになってしまう心配がありません。また、家計簿アプリを使っている場合、レシート内容を転記したり、スキャンする手間が軽減します。
企業の場合、紙のレシートはスキャンして電子データにするもしくは紙のまま保存しなければなりません。電子データにするにはスキャンする手間、紙保存はファイリングや保管の手間がかかります。
しかし、電子レシートであれば、スキャンの手間がかからないのはもちろん、同じフォーマットのデータとして管理できるため、効率化が可能です。
レシートの紛失リスクが低減する
紙のレシートは適切に管理していないと紛失してしまうリスクがあります。これは個人も企業も変わりません。特に企業の場合、レシートを紛失してしまえば、紛失した分は経費として請求することもできなくなります。
また、紛失リスクが低いだけではなく、検索性が高いのも電子レシートのメリットです。紙のレシートは探す手間もかかりますが、電子レシートは容易に検索ができるため、経費処理の効率化が実現します。
感染症対策につながる
感染症対策につながるのも電子レシートのメリットです。電子レシートは紙のレシートのように店員と購入者が直接もしくは間接的に接触する必要がありません。もちろん、接触を100%なくすことはできないものの、少しでも接触を減らせることで、感染症対策にもつながります。
電子レシートを発行する側のメリット
電子レシートは発行する側にとっても多くのメリットが考えられます。ここでは、主な2つのメリットを見てみましょう。
レシート発行コストが削減される
電子レシートにすれば、レシートの用紙やレシートに印字するためのインクなどにかかるコスト削減が可能です。さらに電子レシートは電子データのため、5万円以上の買い物であっても、印紙を貼る必要がなく、印紙税にかかるコストも削減されます。
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
引用元:印紙税法|e-Gov 法令検索
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
引用元:第7節 作成者等|国税庁
また、紙のレシートはレジに毎回、ロールをセットしなければなりません。しかもロールがなくなれば交換する必要があり、混雑時であれば、お客様を待たせることになります。
しかし、電子レシートであれば、お客様が提示するバーコードをスキャンするだけのため、お客様を待たせる心配もありません。
販売促進企画の実施が可能になる
電子レシートの発行により、店舗は顧客に対し、よりきめ細やかな販売促進企画の実施が可能です。
電子レシートを発行するには、基本的にアプリ会員になってもらう必要があります。そのため、店舗側は会員の年齢、性別のほか、商品購入傾向や購入時間帯など多様なデータ入手が可能です。
これらのデータを蓄積、分析することにより、これまでよりもきめ細やかな販売促進企画の実施が実現します。
また電子レシートであれば、セール情報やプライスダウン商品の掲示など、紙のレシート以上に多様な広告を掲載することも可能です。
電子レシートを利用する側のデメリット
多様なメリットを得られる電子レシート。しかし、利用側、発行側それぞれでデメリットもいくつか考えられます。ここではまず利用する側の主なデメリットを見てみましょう。
セキュリティリスクが高まる
電子レシートは、スマートフォンを紛失もしくは盗難された場合、購入履歴を含めた個人情報の漏えいリスクが高まります。これは個人、企業だけではなく、発行側にとっても管理が甘ければ顧客情報の漏えいにつながってしまうでしょう。
電子レシート登録の手間がかかる
電子レシートを発行してもらうには、スマートフォンを所持していること、そしてアプリをダウンロードして会員登録をすることが必須です。
これまでの紙レシートであれば、ただ受け取るだけだったものが、スマートフォン所持やアプリ登録の手間がかかってしまうのは、利用側にとってデメリットといえるでしょう。
また、電子レシート自体、まだ普及段階であるため、アプリダウンロードや会員登録の手間をかけても、電子レシートが使えない店舗も少なくありません。これも現時点での利用者側のデメリットです。
電子レシートを発行する側のデメリット
次に電子レシートを発行する店舗側で考えられる主なデメリットを2つ紹介します。
電子レシート用設備の導入コストがかかる
電子レシートを発行するための設備を導入するコストがかかるのは、店舗側にとってもっとも大きなデメリットです。
電子レシート事業者の種類にもよるものの、電子レシート対応のPOS(レジ)やインターネット回線契約、バーコードスキャナなどが必要になります。個人経営や小規模な店舗で設備購入のコストがかかるのは、導入の障壁だといえるでしょう。
お客様対応のための教育が必要になる
電子レシートという新たなサービスを開始することになるため、社員やアルバイトに対し使い方の教育が必要になります。
また、お客様へ電子レシートの説明をする機会も増えるため、そのための教育も必要になるなど、導入店舗にとってはこれまでにない手間が発生する可能性が高まるでしょう。
企業が電子レシートを効果的に活用するためのポイント
企業が電子レシートを導入し、効果的に活用するにはいくつかのポイントがあります。そのなかでも、次の2点については、しっかりと把握し徹底することが重要です。
レシート保存ルールを見直す
企業が電子レシートアプリを導入する際には、レシート保存のルールを見直し、必要があれば改めて改定しなくてはなりません。
電子レシートは月1回、まとめて経理に申請するようにするもしくは都度、メールでデータを転送し、経理部の方でまとめるなどのルールは明確にしておきましょう。また、紙のレシートの取扱についても改めて社内規定に明示するようにすれば、効率的な管理が可能になります。
電子レシート対応店舗を把握する
自社がよく使う店舗は電子レシートに対応しているのか、している場合、どの電子レシートサービスなのかを把握した上で導入の検討を進めましょう。
導入したものの、普段利用する店舗では使えないサービスであれば、意味がありません。導入する以上は、できるだけ活用できる店舗、サービスを選択することが重要です。
アプリを利用するスマートフォンの管理を徹底する
電子レシートの管理は基本的にパソコンで行うため、利用するスマートフォンのセキュリティ対策は改めて見直す必要があります。
紛失、盗難時に外部からロックできるソフトの導入や利用する社員へのセキュリティ教育の徹底を行い、万が一に備えるようにしましょう。
個人が電子レシートを効果的に活用するためのポイント
個人が電子レシートを効果的に活用するには、次のポイントを抑えることが重要です。
家計簿ソフトと連携する
個人が電子レシートを利用する理由はさまざまですが、家計管理目的の場合は、現在、利用している家計簿ソフトと連携している電子レシートサービスを選択する必要があります。
また、逆に利用している店舗に併せて電子レシートサービスを選択する場合は、その電子レシートサービスと連携している家計簿サービスへの乗り換え検討が必要でしょう。
できる限り、手間なく効率的に管理をするのであれば、電子レシートサービスと家計簿アプリは連携して活用するのがおすすめです。
電子レシートを上手く活用して効率的なレシート管理を実現させよう
電子レシートとは、これまで紙で発行されていたレシートを電子化したものです。スマートフォンやパソコンで購入消商品や金額を確認できるため、紙で保存することなく購入商品の管理を行えます。
2024年7月現在、全国展開するスーパーが導入したり、利用できる店舗が増えたりしているため、今後、利用者は確実に増加していくことが予測されます。
もちろん、店舗側の導入コストの高さや利用者側のセキュリティリスクなど解決すべき課題も少なくはありません。ただ、特に企業においては、改正電子帳簿保存法へ対応するうえで、紙のレシートをスキャンする手間がなくなる電子レシートには多大なメリットがあります。さらにスマートフォンから購入情報の確認ができるため、社員からの経費請求不正防止も可能です。
企業にとって電子レシートは、セキュリティ対策を徹底さえすれば、基本的にはメリットしかありません。自社の利用状況に応じて適切なサービスを選択し、経理業務の効率化実現を目指しましょう。