株式譲渡契約書は、株式を譲渡(売買)する際に必要な契約書です。一般的には経営権の継承や資金調達などの際に売買を行う相手と交わすもので、双方の権利や義務を明確にする役割を果します。
本記事では、株式譲渡契約書の概要に触れたうえで、どのような場合に株式譲渡が必要になるのか、その種類や譲渡方法についてお伝えします。株式譲渡契約書のひな形についても紹介しますのでぜひ、参考にしてください。
目次
株式譲渡契約書とは
株式譲渡契約書とは、企業が株式を売買する際に必要になる契約書です。英語ではStock Purchase AgreementでSPAと略されます。
企業にとって自社の株式を譲渡することは、資本構造の最適化や株主構成の変更など財政や経営的に大きな影響を与える行為です。そのため、株式譲渡契約書を作成し、自社と売買相手との合意事項を正確に記載することで、トラブルのない取引が可能になります。
譲渡と贈与の違い
株式譲渡は民法555条において、次のように定められています。
(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
つまり、譲渡される相手は必ず、株式に対する代金を支払わなければなりません。
これに対し贈与は民法549条で次のように定められています。
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
譲渡の場合、株式を受け取るのに代金が発生するのに対し、贈与は無償です。株式が相手に渡る点では譲渡も贈与も変わりません。その対価として代金が発生するかしないかが譲渡と贈与の違いです。そのため、贈与の場合は、株式譲渡契約書ではなく、株式贈与契約書を作成して贈与の契約をします。
株式譲渡と株式交換の違い
株式交換とは、特定の会社を子会社化する際に用いられる方法です。売買によって株式を取得する株式譲渡とは異なり、特定の会社の株主に自社の株式を交付する代わりにその会社の株式を全て取得して子会社にします。
また、株式譲渡は双方での合意がなければ契約の締結はできません。これに対し株式交換は株主総会での特別決議によって交付でき、株主の個別合意を必要としません。よって、株式交換において株式譲渡契約の締結は必要はありません。
株式譲渡と事業譲渡の違い
株式譲渡を知るには事業譲渡との違いについても理解しておく必要があります。
株式会社で経営権を保持するには、基本的に過半数となる50%以上が必要です。そのため、過半数以上の株式を取引相手に譲渡すれば、会社の経営権が取引先へ移動します。
これに対し事業譲渡は、自社が持つ複数の事業のなかから、一部もしくはすべての事業を取引先へ譲渡するものです。そのため、事業譲渡を行う際には株式譲渡契約ではなく事業譲渡契約を締結します。
ただし、すべての事業を譲渡したとしても経営権は移動しません。あくまでも事業のみの譲渡なのが株式譲渡とは異なる点です。
株式譲渡契約が必要になる株式譲渡とは
企業が行う株式譲渡には、「譲渡制限のある株式譲渡」と「譲渡制限のない株式譲渡」があります。そして株式譲渡契約が必要になる株式譲渡とは、「譲渡制限のある株式譲渡」です。
譲渡制限とは、主に中小企業が自社の乗っ取りや意図しないものに株式が渡ってしまうことを防止するために設けられています。上場企業は株式に譲渡制限を設けられないため、譲渡制限は基本的に非上場企業に定められているものです。
非上場企業は、証券取引所において株価が明示されていないため、売り手と買い手が直接交渉を行い株価を決め、合意を得たうえで譲渡を行います。そこで、合意した価格や譲渡の条件などを記した株式譲渡契約書を作成して契約を締結するのです。
以上のことから、株式譲渡契約を締結する必要があるのは基本的には非上場企業が株式の譲渡をする場合に限定されます。ただし、上場企業であっても、株式を大量に保有するものや経営者などが特定の個人や企業に直接売却する場合は、株式譲渡契約の締結が必要です。
一般的な株式譲渡の流れ
株式譲渡契約を必要とする株式譲渡の一般的な流れは次のとおりです。
STEP
株式譲渡に関する条件の交渉
譲渡制限のある株式の売り手と買い手が株価や取引の条件について交渉を行います。なお、この後の流れは必ずしも合意後ではなく、交渉中であっても進めていくケースも珍しくありません。
STEP
株式譲渡承認請求
仮に当事者間で譲渡の合意があったとしても、譲渡制限のある株式を譲渡するには会社の承認が必須です。そのため、株式の譲渡を行うものは、売り手である会社に対し、株式譲渡の承認請求を行います。
例えば、個人の株主が個人または企業に譲渡制限のある株式を譲渡する場合、その個人が売り手側である会社に対して承認請求を行います。そして企業間取引で売り手側の経営者が企業に譲渡する場合は、経営者が自身の会社に対し承認請求を行わなくてはなりません。
譲渡制限株式の譲渡請求を行う場合、株式譲渡承認請求書を作成し、売り手側の会社に提出します。記載事項は、「譲渡をする本人(申請人)住所と名前」「譲渡する株式の種類と数」「譲渡する企業の住所」です。
STEP
取締役会もしくは株主総会での承認
売り手側となる会社が譲渡制限株式の譲渡承認請求書を受け取ったら、会社法139条により、取締役会を開催し、株式譲渡の承認もしくは拒否の決定をします。また、取締役会が設定されていない場合は、臨時の株主総会を開催し、そこで承認もしくは拒否の決定をしなくてはなりません。
(譲渡等の承認の決定等)
第百三十九条 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
引用元:会社法 | e-Gov法令検索
なお、定款により別段の定めがある場合は、取締役会を設置している会社であっても株主総会を開催し、そこで承認や拒否の決定をすることも可能です。
また、拒否することになった場合、株式譲渡はできません。そして、売り手側である会社で自社での買取もしくは指定する買取人に買収させるかの決定をしなくてはなりません。
STEP
株式譲渡承認内容の通知
取締役会もしくは株主総会において、株式譲渡が承認・拒否に関わらず、会社から株式譲渡承認請求をしたものに対し、譲渡承認(拒否)を40日以内(個人株主の場合は10日以内)に通知します。この期間を過ぎて通知をしない場合、株式の譲渡が承認されたとみなされますので注意が必要です。
なお、企業間の場合、売り手側は株式を保持している自社となるため、基本的には株式譲渡承認通知を送る必要はありません。ただし、承認したことを残しておくためには、個人株主へ通知するのと同様、自社に対し通知したほうがよいでしょう。
STEP
株式譲渡契約の締結
株式譲渡承認通知を出せば、株式譲渡契約を締結します。この時点で株価や譲渡の条件で互いに合意が取れていれば、そのまま株式譲渡契約書を作成して契約を実行します。もし合意に至っていない場合、デューデリジェンス(売り手の財務状況や法的問題を詳細に調査すること)や交渉を継続し、合意を形成しなければなりません。
STEP
株主名簿の書き換え
株式譲渡契約を締結し、株式の譲渡を終えたら株式を取得した会社は会社法133条1項により売り手側の会社に対して株主名簿の書き換え請求をします。
株式の譲渡を受けるだけでは株主としての権利を行使することはできません。株式を取得していることの証明として、株主名簿の書き換えを請求し、手続きを終えれば、正式な株主として権利の行使が可能です。
(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)
第百三十三条 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。
引用元:会社法 | e-Gov法令検索
なお、株主譲渡契約の締結の手続きについては、必ず弁護士や専門家に相談のうえ、適切に締結する必要があります。
株式譲渡契約書に記載する代表的な7つの項目
株式譲渡契約書には、基本的に次の7項目を記載する必要があります。
- 株式譲渡の内容:株式の銘柄、種類、株式数など
- クロージングに関する事項:譲渡対価の支払い方法、株式の移転など
- 譲渡の前提条件:株式の移転や代金の支払いに対する特定条件
- 表明保証:売り手と買い手が自分自身や対象となる会社に関する重要な事項が真実かつ正確であると保証すること
- 遵守事項:売り手や買い手が取引の前後で守るべきルールや義務
- 契約解除に関する事項:株式譲渡契約の締結後、クロージング前に株式譲渡契約を解除できる事由
- その他の一般条項:秘密保持や反社会的勢力の排除、損害賠償に関する条項など
株式譲渡契約書のひな形
上述した代表的な記載事項を基に株式譲渡契約書を作成する際の例を紹介します。
【株式譲渡契約書】
売り手: [売り手の氏名または会社名、住所]
買い手: [買い手の氏名または会社名、住所]
・第1条(譲渡する株式)
売り手は、買い手に対し、[会社名]の普通株式[譲渡株式数]株を、本契約に基づき譲渡する。
・第2条(譲渡価格)
譲渡する株式の価格は、[金額]円とする。
買い手は、上記金額を売り手が指定する銀行口座に[支払い期限]までに支払うものとする。
・第3条(株式の引渡し)
売り手は、買い手から譲渡価格の全額を受領した後、[引渡し日]に譲渡する株式を買い手に引き渡す。
・第4条(株主名簿の名義書換)
売り手と買い手共に本件株式の譲渡後直ちに共同して対象会社に対し、本件株式を取得した買い手の氏名及び住所等の株主名簿記載事項を株主名簿に記載することを請求するものとする。
売り手は本件譲渡日までに、本件株式の譲渡について対象会社の承認を得るものとする。
・第5条(表明保証)
売り手は、以下の事項を保証する。
本件株式が適正、適法かつ有効に発行されたものであること
売り手は、譲渡する株式を自由に譲渡できる権利を有していること
譲渡する株式には、第三者の権利が存在しないこと
・第6条(契約解除)
前条の表明保証に相違する事実が判明した場合。直ちに本契約を解除し。買い手に対し、損害の賠償請求をすることができる。
・第7条(協議解決および管轄裁判所)
本契約書に定めのない事項および本契約書の解釈に疑義が生じた場合は、双方誠意をもって協議のうえ解決するものとする。
本契約に関連する紛争が生じた場合、[管轄裁判所]を専属的合意管轄裁判所とする。
本契約書は、売り手と買い手が署名または記名・捺印の上、各1通ずつ保有する。
[作成日]
売り手: [署名または記名・捺印]
買い手: [署名または記名・捺印]
このひな形はあくまでも例であり、実際に作成する場合、必ず弁護士のサポートを受け、その時点での法律に照らし合わせて作成するようにしてください。
株式譲渡契約書の作成に電子データがオすすめの理由
株主譲渡契約書を作成する方法は、基本的には紙か電子データです。現時点で契約書の作成を紙で行っているのであれば、紙の方がコストや手間がかかりません。ただし、ペーパーレスが進む今、ほかの契約書や請求書などと合わせ電子化するのもおすすめです。
導入コストは必要となるものの、一旦導入してしまえば、契約書の作成や管理、検索などが紙に比べ圧倒的に効率的に行えるようになります。自宅からでも作業ができるのも大きなメリットで、テレワークを導入する際にも便利です。
弁護士と相談のうえ、間違いのない正しい株式譲渡契約書を
株主譲渡契約は企業の財政、経営面において非常に重要な意味を持つ契約です。そのため、取引先となる買い手とも綿密に交渉を行う必要があります。また、契約を締結する際の株式譲渡契約書にも注意が必要です。法律に照らし合わせ適切に作成しないと、後になってトラブルになるリスクが増大します。
今回、ご紹介したひな形を参考にしつつも、必ず弁護士や専門家にアドバイスを受けながら記載漏れやミスがないよう作成しましょう。
また、契約書の作成は紙ではなく電子データがおすすめです。さらに電子契約サービスを活用すれば、契約書の締結から管理まで一括で行えるため、効率的かつ間違いのない契約書管理が実現します。
おすすめの電子契約システムはGMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供する電子契約サービス、GMOサインです。契約書の作成から電子契約による契約締結、管理までを一元で管理できます。
また、セキュリティ体制も万全なため、安心して契約業務も行えますので、株式譲渡契約書の電子化、契約業務の効率化を検討されている際はぜひお気軽にご相談ください。