電子契約を利用すると、印紙税が不要になるのでおすすめです。しかし、これまで必要だった印紙税がなぜ不要になるのか疑問に感じる方も多いでしょう。
そこで本記事では、電子契約で印紙税が不要になる理由について詳しく解説します。
目次
電子契約で不要になる印紙税について
電子契約で不要になる印紙税は、どのような税金なのでしょうか。まずは印紙税について解説します。
印紙税とは
印紙税とは、法律で定められた課税文書に対して課される税金です。税金ですので、国に納めないと脱税にあたってしまい、大きなトラブルを招くこともあります。
印紙税の納付方法は、原則収入印紙による納付とされています。
- 原則 :収入印紙による納付
- 特例1:税印捺印による納付
- 特例2:印紙税納付計器の使用による納付
- 特例3:書式表示による納付
- 特例4:預貯金通帳などに係る一括納付
参考:令和4年5月 印紙税の手引|国税庁
収入印紙とは
印紙税を納めるために必要な収入印紙は、印紙税や登録免許税など国に税金を納めるための証票です。納めるべき税金は、課税文書の種類や契約金額等によって細かく定められています。
収入印紙は額面の異なる31種類があり、下記のものが存在します。
1円、2円、5円
10円、20円、30円、40円、50円、60円、80円
100円、120円、200円、300円、400円、500円、600円
1,000円、2,000円、3,000円、4,000円、5,000円、6,000円、8,000円
10,000円、20,000円、30,000円、40,000円、50,000円、60,000円、100,000円
印紙税が必要になる文書とは
印紙税は全ての文書に必要になるわけではありません。
国税庁が印紙税の対象にしているのは、下記の20種類の文書です。
- (1)不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約
(2)地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
(3)消費貸借に関する契約書
(4)運送に関する契約書(傭船契約書を含む。)
- 請負に関する契約書
- 約束手形又は為替手形
- 株券、出資証券若しくは社債券又は投資信託、貸付信託、特定目的信託若しくは受益証券発行信託の受益証券
- 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書
- 定款
- 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。)
- 預貯金証書
- 倉荷証券、船荷証券又は複合運送証券
- 保険証券
- 信用状
- 信託行為に関する契約書
- 債務の保証に関する契約書(主たる債務の契約書に併記するものを除く。)
- 金銭又は有価証券の寄託に関する契約書
- 債権譲渡又は債務引受けに関する契約書
- 配当金領収証又は配当金振込通知書
- (1)売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書
(2)金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの
- 預貯金通帳、信託行為に関する通帳、銀行若しくは無尽会社の作成する掛金通帳、生命保険会社の作成する保険料通帳又は生命共済の掛金通帳
- 第一号、第二号、第十四号又は第十七号に掲げる文書により証されるべき事項を付け込んで証明する目的をもつて作成する通帳(前号に掲げる通帳を除く。)
- 判取帳
以上の文書を作成する場合、金額に応じて収入印紙を貼付し、印紙税を納めなくてはいけません。
過怠税とは
印紙税は国が定める納税義務であり、誤った方法で収入印紙を取り扱うと大きなリスクを伴います。
ここで必ず覚えておくべき点は、「過怠税」についてです。
過怠税が発生すると、納付額は本来納付すべき印紙税の3倍となりますので注意しましょう。
電子契約では印紙税が不要になる理由
金額によっては、高額な収入印紙の貼付が必要になる契約もあります。しかし、同じ契約でも電子契約を利用すると収入印紙の貼付が不要になると言われます。
次に、「電子契約では印紙税が不要になる理由」について解説します。
印紙税に関する国税庁の見解
国税庁は、下記の文書に印紙税が必要という見解を出しています。
(1)印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
(2)当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
(3)印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと
参考:国税庁「課税文書に該当するかどうかの判断」
つまり、国税庁は「課税文書に該当するかどうか」で印紙税の必要性を判断します。
電子契約は文字通り、紙ではなく電子文書に電子署名をして取り交わされる契約なので、国税庁が示す印紙税が必要な3つの文書には該当しません。
電子契約と印紙税に関する国会答弁
電子契約の導入も背景にあり、電子契約と印紙税についての国会答弁も行われました。
衆議院のHPには、下記のように答弁が記載されています。
専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなる
参考:質問主意書「参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対する答弁書」
国税庁の見解より、はるかに明確な答えが出ていることがわかります。
印紙税法に基づく見解
印紙税法に基づく見解においても、印紙税法第2条と3条を見る限り、電子契約は印紙税の義務が発生しないことがわかります。
第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
(納税義務者)
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
2 一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
参考:印紙税法|e-Gov法令検索
【結論】電子契約は印紙税が不要になる
印紙税を納めることは義務であり、印紙税についてしっかり理解していないと知らないうちに脱税してしまうことになりかねなません。そのため、「電子契約なら印紙税は不要」と容易に判断するのもリスキーです。
国税庁の見解や国会答弁、印紙税法により「電子契約なら印紙税は現状不要」と判断できますが、「電子契約なら印紙税が非課税になる」と明確には書かれていない点に注意が必要です。ただ、税法に違反しているわけではないので、現状の税法では「電子契約なら印紙税は現状不要」になります。
電子契約で印紙税コスト削減できる企業
電子契約を導入する最大のメリットは、印紙税の節約です。さまざまな企業が電子契約の導入を進めるのも、従来必要だった印紙代にネックを感じていたからでもあります。
それでは、どのような企業にとって電子契約導入のメリットがあるのか紹介します。
大量の契約書が必要な企業
契約には契約書が必要になります。契約数の多い企業や、契約書以外にも個別契約書が必要な企業にとっては、印紙税は負担が大きくなります。そのため、印紙税代も含めて利益率を考えないといけません。
多くの契約が必要となる企業にとって、電子契約の導入は大幅なコストカットにつながります。
工事の請負契約が多い・契約金額が高い企業
第2号文書に該当する請負に関する契約の印紙税額は、以下のとおりです。
契約金額 | 印紙税額(1通または1冊につき) |
---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円以上200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
参照:国税庁「印紙税額」
契約金額が上がるにつれて、印紙税も高額になります。印紙税の負担が大きくなると、お客様にも負担してもらわないといけないケースも出てくるでしょう。そのため電子契約の導入による印紙税カットは、会社とお客様の双方にメリットになります。また印紙税の負担の有無で、業者を選ぶお客様もいるはずです。
顧客獲得や満足度の向上につながりますので、前向きに電子契約の導入を検討してみてはいかがでしょう。
契約書の巻き直しが必要な企業
民法の改正によって、契約書の巻き直しが必要になる場合があります。企業側の問題でなくても、巻き直しの必要性が出てくると必要な印紙税を納めなくてはいけません。
納税額にもよりますが、電子契約の導入後も印紙税の節約につながりますので、巻き直しが必要になった企業にも電子契約の導入はおすすめできます。
改装を予定している企業
定期的に店舗の改装を行う企業でも、電子契約を導入すると便利になります。店舗改装によって、顧客の定着率は上がります。うまくいけば店舗改装費もスムーズに回収できると思いますが、電子契約を導入して印紙税をカットする方が効率的でしょう。
定期的に改装を行う企業や改装を予定している企業は、ぜひ電子契約の導入を考えてみてください。
電子契約のメリットとデメリット
電子契約の導入は、印紙税の節約以外にもメリットがたくさんあります。しかし、デメリットもありますので、電子契約導入前にメリットとデメリットについて理解しておきましょう。
電子契約のメリット
電子契約導入の大きなメリットは、以下のとおりです。
- 電子契約は印紙税が不要になる
- 納税に関するリスク軽減になる
- 全ての情報をデータベース上で一元管理できる
それぞれについて解説します。
電子契約は印紙税が不要になる
電子契約を導入する最大のメリットは、印紙税が不要になる点です。
契約金額によっては、何十万も税金を納めないといけません。その負担は、電子契約を導入すればカットできます。電子契約導入に迷っている方は、必要となっている印紙税を確認しておきましょう。
納税に関するリスク軽減になる
印紙税は、契約書に必要な収入印紙を貼付して消印することで、納税義務を果たします。一見容易な作業に見えますが、以下のような間違いが起こる場合があります。
- 額面を間違えた
- 認識していた印紙税額と必要な印紙税額が異なっていた
- 消印を忘れた
これらのようなミスを犯すと、過怠税が徴収される場合があります。しかし、このようなリスクも電子契約を導入すれば軽減ができます。
全ての情報をデータベース上で一元管理できる
電子契約を導入することで、管理する手間が省けます。契約書に紙を使って契約を結べば、情報共有のたびに書類を引っ張り出さないといけません。また書類を探すための時間も必要になり、保管を徹底する手間もかかります。その点、電子契約ならデータベース上で一元管理が可能になります。ワンタップで必要な書類の検索が可能になり、共有も容易に行えます。
電子契約導入のメリットは印紙税節約だけでなく、会社全体の作業効率を上げてくれる点にもあるのです。
電子契約のデメリット
電子契約に大きなデメリットはありませんが、以下の点には注意が必要です。
- 全ての契約を電子化できるわけではない
- 今後は課税対象となる可能性もある
電子契約を導入する前に、しっかり確認しておきましょう。
全ての契約を電子化できるわけではない
契約にあたって、以下の契約は電子化できません。
- 訪問販売等特定商取引における交付書面
- 事業用定期借地契約
契約形態によっては、電子契約を導入しても紙を使用した契約しかできない場合もある点に注意しましょう。
現在、訪問販売の契約書に関しては電子化の許可が下りる予定です。法改正が行われたら電子契約も可能になりますので、法改正に期待して導入の準備を始めておくと良いでしょう。
今後は課税対象となる可能性もある
「電子契約では印紙税が不要になる」ということに関して、現状の税法であれば不要と判断できると解説しました。しかし今後税法が改定された場合には、電子契約も課税対象になる可能性もゼロではありません。
印紙税の歴史について、国税庁は下記のように明記しています。
印紙税導入の目的は、江戸時代からの税負担が農業者に偏重し、商工業者には軽いという状況を改め、商工業者にも均一の税負担を課すことと記されています。
参考:国税庁「印紙税導入時のパンフレットの作者」
印紙税の目的を考えると、印紙税の必要性を国が今後どのように判断するか予想できません。印紙税制度を導入する国は、決して多くはありません。国が電子契約導入によるメリットと、印紙税徴収の必要性を考えることになるでしょう。
もしこの先、国が電子契約による印紙税不要について問題視することになれば、永久的に印紙税がかからないとは言い切れないことは念頭においておきましょう。
印紙税が不要になる電子契約の導入は多くの企業におすすめ
課税文書に対して国税庁が義務として定める印紙税は、企業にとっては大きな負担になる場合があります。なぜなら、契約金額によっては高額な印紙税を納めないとならないからです。
そこで、近年導入する企業が増えているのが「電子契約」です。そのため、実際に契約の際に電子契約を求められたことがある方も多いのではないでしょうか。
電子契約であれば、現状は印紙税が不要になります。今後、税制が改定されると印紙税の必要性が変わる可能性はありますが、印紙税を少しでも節約するなら早めに電子契約の導入を進めましょう。
電子契約は印紙税の節約だけでなく、作業効率向上にもつながります。電子契約のメリットを考えれば、多くの企業において電子契約が便利になるでしょう。