ビジネスの現場ではデジタル化が進んでおり、これまでは紙で作成していた書類も電子化する動きが広まっています。金銭消費貸借契約書の電子化を検討している事業者の方も多いでしょう。
そこで気になるのが、金銭消費貸借契約書を電子化する方法です。そもそも金銭消費貸借契約書の電子化は可能なのか、メリットや注意点などについても把握しておきたいでしょう。
本記事では、金銭消費貸借契約の電子契約について解説してきます。
目次
金銭消費貸借契約とは?
最初に金銭消費貸借契約がどのようなものなのか見ていきましょう。
借入をするときに行う
金銭消費貸借契約とは、借入の際に締結する契約のことです。
民法587条には消費貸借契約についての規定が置かれていますが、このうち貸し借りの対象が金銭の場合には金銭消費貸借契約になります。企業や個人が金融機関から融資を受けたり、ローンを利用したりする際には、金銭消費貸借契約を締結します。
また、消費貸借契約は、借主が金銭その他の代替性があるものを受け取り、これと同種、同量、同等のものを返還する契約です。
金銭消費貸借契約においては、金銭が消費貸借契約の対象となります。
個人間取引の場合には
金銭消費貸借契約は、法人との間だけでなく、個人間でも締結可能です。
実際に個人間でお金の貸し借りをするケースもあるでしょう。
また、契約当事者の一方または双方が法人である場合には、契約書を交わすのが一般的です。しかし、個人間では、金額が小さいことも多く、口頭のみで契約を行い、契約書を交わさないケースも存在します。その場合には、後のトラブルにもつながりかねないため、個人間の金銭消費貸借契約においても、契約書を交わすのが望ましいでしょう。
借用書の役割
契約書とは別に借用書が用いられることもあります。では、借用書と契約書の違いや効力について見ていきましょう。
契約書との違い
金銭消費貸借契約書は、契約の当事者双方が署名や押印をして作成しますが、借用書は債務者だけで作成するのが大きな違いです。
形式などは特に決まっておらず、自分がお金を借りる旨の内容、金額、利息、返済期限などに関する内容を記載します。また、契約書は収入印紙の貼付が必要になる場合がありますが、借用証も一定金額以上であれば収入印紙の貼付が必要です。
契約書よりも簡単に作成できるため、時間がないときなどに借用書が用いられます。
借用書の効力
借用書の効力は基本的に契約書と同等です。
ただし、契約書と比べると簡素な書類であることから、偽造と疑われるリスクも伴います。そのため、金銭消費貸借契約締結時には、契約書を作成しておくのが望ましいです。
電子契約とは?
次に電子契約とはどのようなものなのか見ていきましょう。
紙を使用しない契約方法
契約締結の際には、書面を交わすのが一般的です。契約書を作成する際にも、借用書を作成する際にも紙を使用することが多いでしょう。電子契約の場合には、紙を使用しないことが大きな特徴です。インターネット上でのやり取りのみで契約が成立し、電子化された契約書も作成できます。
電子契約における契約書の効果も紙で作成する契約書と同等です。
トラブルになった場合には、電子契約で作成した契約書を証拠として使用できます。契約の当事者であれば、内容の確認はいつでも可能です。
電子証明書とタイムスタンプを使用
紙の契約書には、契約当事者双方の印鑑が押されているでしょう。押印により、真に両者が合意のうえで締結した契約だということが分かります。
電子契約の場合には、デジタルデータであるため改ざんできないような仕組みが必要です。そのための仕組みとして、電子証明書とタイムスタンプが使用されています。
電子証明書とは、情報を本人が送信していることを担保できる仕組みです。
電子契約において電子証明書を使用していれば、紙の契約書に対する押印と同等に扱われます。また、電子証明書を使用する際には、事前に認証局での発行手続きを済ませておかなければなりません。
タイムスタンプは、特定の日時に電子データが存在していたことを証明できる仕組みです。
万が一、データを作成した後に改ざんされたとしても、タイムスタンプがあれば、改ざんの事実が分かります。
金銭消費貸借契約の電子契約で行うことはできるのか
消費貸借契約は民法522条2項により、金銭その他のものを引き渡すことで成立します。一方で、書面による消費貸借契約であれば、民法587条の2の規定により、ものを引き渡すことなく成立可能です。
そのため、電子契約の方法で金銭消費貸借契約も締結可能となります。
ただし、金銭消費貸借契約の相手方も、電子契約で契約締結することを了承していなければなりません。
電子契約で金銭消費貸借契約を締結する手順
電子契約で金銭消費貸借契約を締結する際には、次のような手順で行います。
STEP
申し込み手続き
まず、借入先の金融機関を選び、電子契約の利用申し込み手続きを行いましょう。必要書類を揃えて申し込み手続きを済ませれば、その金融機関で電子契約を利用できるようになります。この次点ではまだ借入の審査は行われません。そして、電子契約の利用申し込みとは別に借入の申し込みも必要です。申し込み段階ではまだ、金銭消費貸借契約を締結しません。
STEP
審査
借入の申し込みをすると審査が行われます。問題なく審査に通過した場合には、結果が通知され、契約手続きに関する案内などが行われます。また、過去の借入や収入などの状況によっては、審査に通過できないこともあるかもしれません。その場合にも、審査に通過できなかった旨の通知が送られます。
STEP
契約手続き
無事審査に通過すれば、電子契約サービスサイトのログインに必要な情報が送付されます。ログインした後に、電子契約で金銭消費貸借契約を締結すれば、契約手続き完了です。また、金銭消費貸借契約の内容は、サービスサイトにログインすれば、いつでも閲覧可能となっています。
金銭消費貸借契約で電子契約を利用するメリット
金銭消費貸借契約を締結する際に、電子契約を利用するメリットについて見ていきましょう。
手続きをするのに時間がかからない
金銭消費貸借契約を締結するにあたって、紙の契約書を作成する場合には、どうしても時間と手間がかかってしまいます。当事者双方の印鑑が必要となるため、郵送の手間もかかってしまいます。対面での契約を行う場合であれば、予定の調整なども必要になるでしょう。そのため、紙の契約書ではどうしても契約に日数を要してしまいます。
一方、電子契約を利用すれば、インターネット上の手続きのみで契約締結が可能です。お互いが別々の場所にいても問題なく、電子署名もオンラインで行えます。
コストを削減できる
金銭消費貸借契約書を紙で作成すると、用紙代や印刷代などのコストがかかります。収入印紙も貼付しなければなりません。押印のために相手のところに出向くのであれば、交通費もかかるでしょう。郵送で行うにしても切手代がかかります。
紙を使わない電子契約を利用する際には、そのようなコストがかからないのがメリットです。オンラインで完結するため、交通費や切手代も節約できます。
さらに、電子契約では収入印紙を貼付する必要がなく、印紙税もかかりません。
コスト削減のために、紙の契約書から電子契約に移行する人も多いです。
必要なときにすぐに探せるようになる
金銭消費貸借契約書の内容を後から確認することもあるでしょう。紙の契約書では、すぐに探せず時間がかかってしまうことも多いです。また、契約書そのものは探せても、確認したい内容が書かれている部分を探すことに、時間がかかってしまうこともあります。
これに対して、電子契約であれば特定のキーワードで検索をかけて探すことも可能です。記載内容に関しても検索で一致する部分を探せばよいため、確認したい箇所をすぐに見つけられるでしょう。
金銭消費貸借契約を電子契約で行う際に注意すべきポイント
金銭消費貸借契約を電子契約で行えば、紙の契約書を用いるよりもメリットが大きいです。しかし、紙の契約書とは異なり注意すべき点もあります。
保存形式
電子契約においては、改ざんできないような状態で保管しなければなりません。保存形式によっては、改ざんできてしまう場合もあるため、適切な保存形式を用いることが重要です。
保存義務
電子契約書に関しては、法律上の保存期間が定められています。
保存期間を過ぎるまでは、税務署などから提示を求められる場合もあるため、確実に保存しておく必要があります。
金銭消費貸借契約の場合には、債務者が完済すれば、双方とも内容を確認する必要はなくなるかもしれません。しかし、完済後も税務上必要になる可能性があるため、法律上の保存期間が過ぎるまでは、削除せずに保存しておきましょう。
セキュリティ
契約書の内容は、基本的に当事者や関係者以外の人に見られないようにしておかなければなりません。紙の契約書の場合だけでなく、電子契約書においても同様です。
アクセス権などを設定して、閲覧できる人を限定しておきましょう。アクセスログを保存する設定にしておけば、いつ誰がアクセスしたか分かるためセキュリティがより強固になります。
ミスによる情報漏洩に備えて、データを暗号化しておくなどの対策も効果的です。
まとめ
金銭消費貸借契約は、借入をするときに交わす契約です。
契約書を作成しなくても契約自体は成立しますが、法人が当事者の場合には契約書を作成することが一般的です。個人間の場合には、口頭での契約や借用書で済ませるケースもあります。
電子契約で金銭消費貸借契約を行うことも可能であり、その場合には手間やコストを削減できます。検索性も向上し、必要なときにすぐ探し出せる点もメリットです。保存義務やセキュリティなどに注意が必要ですが、紙の金銭消費貸借契約書よりも管理が容易になります。
金銭消費貸借契約を締結する際には、電子契約を活用してみましょう。