企業では契約を交わす機会が多く、その都度契約書を作成して保管しています。以前は、紙での契約書作成が般的だったため、時間とコストがかかっていました。
しかし、最近では電子契約を導入する企業が増えています。ただ、電子契約書は紙の契約書とは異なる面もあるため注意が必要です。
紙の契約書では署名して押印しますが、電子契約書では電子署名とタイムスタンプを付与します。そして、電子署名とタイムスタンプに関しては有効期限に注意しなければなりません。
本記事では電子署名やタイムスタンプの有効期限と、長期契約を締結する際の対処法について解説していきます。
目次
企業が電子契約を導入する理由
最初に電子契約を導入する企業が増えている理由について見ていきましょう。
コスト削減のため
紙の契約書を作成する際には、印刷代や郵送代、製本代、封筒代、印紙代などのコストがかかります。1回だけであれば、それほど大きなコストではありません。しかし、契約書を作成する頻度の高い企業にとっては軽視できないコストです。
その点、電子契約書ならコストはほとんどかかりません。契約書作成にかかるコストを削減するために電子契約を導入する企業は多いです。
業務効率化のため
紙の契約書を作成するのにはコストだけでなく手間もかかりますが、電子契約なら手間もほとんどかかりません。データのまま送信できるため、全てオンラインで完結できます。契約締結にかかる時間を大幅に短縮して業務効率化につなげることを目的として、電子契約を導入する企業は多いです。
保管スペースをとらないため
電子契約書の場合、クラウド上にデータを保管する方法が一般的です。紙の契約書と違って、社内に保管スペースは必要ありません。これまで紙の契約書を保管するためにに使用していたスペースを空けるために電子契約を導入する企業もあるでしょう。
電子契約書におけるタイムスタンプの仕組みと役割
電子契約書においてタイムスタンプはどのような役割を果たしているのか見ていきましょう。
電子ファイルの作成日時を記録する
タイムスタンプは電子ファイルが作成された日時を記録する役割を果たしているものです。紙の契約書に記載されている年月日に相当するものと捉えていいでしょう。紙の契約書には署名と押印がありますが、電子契約書では電子署名を使用します。
どのような仕組みで記録するのか
タイムスタンプなどのデジタル署名がなくても、PCで作成した電子ファイルには自動的に作成日時の記録されるのが一般的でしょう。ファイルのプロパティを見ればかんたんに確認できます。しかし、ここで記録される作成日時は、信頼できるものとは限りません。偽りの日時を記録しようとすれば容易にできてしまいます。
タイムスタンプは、時刻認証局という社団法人日本データ通信協会から認定を受けた第三者機関によって付与されるものです。時刻認証局では正確な日時を記録するため、作成日時をごまかすことはできません。
契約書の改ざんを防止できる
タイムスタンプは、単に作成日時を記録するだけでなく改ざん防止の役割も果たしています。タイムスタンプ付与時点でファイルの内容を元にしてハッシュ値が作成される仕組みです。もし、タイムスタンプ付与時点から電子ファイルの内容が変更されていれば、ハッシュ値も変わってしまいます。
こうした仕組みを利用すれば、改ざんされていないことを証明することが可能です。現在のハッシュ値とタイムスタンプ付与時点でのハッシュ値を照合して一致すれば、改ざんされていないことが分かります。
また、契約書の記載内容を変更する必要があるときには、改めてタイムスタンプの付与が必要です。
タイムスタンプには有効期限が設定されている
タイムスタンプは一度付与すれば、永続的に有効というわけではありません。有効期限が設定されています。では、なぜ有効期限が必要なのか、理由と有効期限の確認方法について見ていきましょう。
有効期限が設定されている理由
電子ファイルからハッシュ値を作成することはできても、その逆は通常できません。しかし、危殆化(きたいか)リスクといって、長年経過するとハッシュ値を作成する暗号化技術が破られてしまう可能性があります。そのような状況になれば、タイムスタンプの信頼性は大きく低下してしまうため、タイムスタンプには有効期限が設定されています。
有効期限の確認方法
タイムスタンプの有効期限は通常10年です。また、PDFファイルであれば、「Adobe Acrobat Reader」を使用して確認できます。
対象となるファイルを開いて、画面右上にある「署名パネル」のところをクリックしましょう。そうすると画面左側にタイムスタンプや電子署名に関する情報である「電子署名パネル」が表示されます。
「署名の詳細」のところから「証明書の詳細」へと進むと証明ビューアが開きタイムスタンプの有効期限を確認可能です。画面下の方に「有効期間の開始」と「有効期間の終了」の日時が表示されます。画面下の方でタイムスタンプが付与された日時も確認可能です。
バージョンによって、表示される文言が異なる場合がありますので、公式サイトなどで確認しながら作業を進めてください。
電子署名にも有効期限が設定されている
タイムスタンプだけでなく、電子署名にも有効期限が設定されています。理由はタイムスタンプと同様に危殆化リスクがあるためです。また、電子署名の場合には、電子署名法施行規則6条4項に「電子証明書の有効期間は、五年を超えないものであること。」と規定されています。
(その他の業務の方法)
第六条 法第六条第一項第三号の主務省令で定める基準は、次のとおりとする。
一 利用申込者に対し、書類の交付その他の適切な方法により、電子署名の実施の方法及び認証業務の利用に関する重要な事項について説明を行うこと。
二 利用申込者の申込みに係る意思を確認するため、利用申込者に対し、その署名又は押印(押印した印鑑に係る印鑑登録証明書が添付されている場合に限る。)のある利用の申込書その他の書面の提出又は利用の申込みに係る情報(認定を受けた認証業務(以下「認定認証業務」という。)又はこれに準ずるものに係る電子証明書により確認される電子署名が行われたものに限る。)の送信を求めること。
三 利用者が電子署名を行うために用いる符号(以下「利用者署名符号」という。)を認証事業者が作成する場合においては、当該利用者署名符号を安全かつ確実に利用者に渡すことができる方法により交付し、又は送付し、かつ、当該利用者署名符号及びその複製を直ちに消去すること。
三の二 利用者署名符号を利用者が作成する場合において、当該利用者署名符号に対応する利用者署名検証符号を認証事業者が電気通信回線を通じて受信する方法によるときは、あらかじめ、利用者識別符号(認証事業者において、一回に限り利用者の識別に用いる符号であって、容易に推測されないように作成されたものをいう。)を安全かつ確実に当該利用者に渡すことができる方法により交付し、又は送付し、かつ、当該利用者の識別に用いるまでの間、当該利用者以外の者が知り得ないようにすること。
四 電子証明書の有効期間は、五年を超えないものであること。
引用元:電子署名及び認証業務に関する法律施行規則|e-Gov 法令検索
電子証明書は電子署名の本人性を証明するためのものです。電子証明書の有効期限が切れれば、電子署名も有効なものではなくなってしまいます。電子署名が印鑑だとすれば、電子証明書は印鑑証明に相当するものです。
また、法律上は最大5年までの有効期限を設定できますが、大半の電子契約システムにおいて1~3年程度に設定されています。
タイムスタンプや電子署名が有効期限切れになった場合の扱い
すでにタイムスタンプを付与している契約書でも、年数が経過するとタイムスタンプが有効期限切れになることがあります。電子署名に関しては、タイムスタンプよりも早く有効期限が到来するでしょう。
では、タイムスタンプや電子署名が有効期限切れになった場合には、どのように扱われるのか見ていきましょう。
法的効力を持たなくなる
電子契約書は電子署名があることで本人性を証明でき、タイムスタンプがあることで作成日時や非改ざん性を証明できます。法的効力を持つものの誰がいつ作成したもので、改ざんできない仕組みのためです。
しかし、電子署名とタイムスタンプが有効期限切れになれば、本人性も作成日時も非改ざん性も証明できません。電子署名とタイムスタンプの有効期限切れとともに法的効力も失効してしまいます。
万が一に備えて、契約の相手とトラブルになって裁判に発展した場合には注意が必要です。有効期限切れの電子署名やタイムスタンプが付与されている電子契約書は証拠能力は低いものとして扱われます。
改ざんのリスクが高まる
タイムスタンプが有効期限切れになるくらいの年月が経過していると、タイムスタンプが付与された当時よりも技術水準が進歩しているでしょう。当時はセキュリティの高い暗号化技術だったとしても、破られてしまっている、または今後破られる可能性もあります。
契約の相手に悪意がある場合には、契約書の内容を自分に有利なように改ざんされてしまうリスクが高まる点に注意が必要です。
契約が完了している場合には
タイムスタンプや電子署名が有効期限切れになる前に契約期間が到来し、契約内容がすべて完了していることが多いです。タイムスタンプの有効期限は10年間であるため、よほど長期間にわたる契約でなければ、有効期限切れになる前に完了します。
契約が完了していれば、相手に対して契約に基づいた要求をすることも、逆に相手から要求をされることもないでしょう。そのため、基本的に更新などは必要ありません。
長期契約を締結する場合の対処法
長期間にわたる契約を締結する際には、契約期間中に電子署名やタイムスタンプが有効期限切れになってしまうことがあります。そのような場合、どう対処すればいいのか見ていきましょう。
10年までの期間の契約
電子署名のみの場合には、最大でも5年までしか有効期限がありません。実際にはもっと短いことが多く、1年程度しか有効期限がない場合もあります。そのため、電子署名のみ利用するのであれば、短期間の契約にしか対応できないことになるでしょう。
一方でタイムスタンプなら10年間の有効期限があります。そして、電子署名とタイムスタンプの両方を一緒にする場合には、電子署名の効力もタイムスタンプの方に合わせられて10年間となる仕組みです。そのため、契約期間が10年までであれば、タイムスタンプを一緒に付与することで対応できます。
10年以上の期間にわたる契約
契約期間が10年以上の場合には、タイムスタンプを一緒に付与するだけでは対応できません。長期署名のフォーマットを利用する必要があります。10年以上の契約で利用される長期署名のフォーマットはES-A(Electronic Signature – Archive)というものです。
ES-Aでは、タイムスタンプが有効期限切れになる前に再びタイムスタンプが付与されて、10年間延長されます。タイムスタンプの付与を何度も繰り返すことで20年や30年といった非常に長い期間の契約においても対応可能です。
GMOサインなら長期契約にも対応できる
これから電子契約の導入を検討していて、長期契約でも利用する予定があるならGMOサインがおすすめです。
GMOサインでは10年を超える期間の長期契約にも対応しています。10年ごとに最新の暗号化技術を用いたタイムスタンプを付与するため、改ざんの心配はありません。
また、GMOサインではお試しフリープランと契約印&実印プランを用意しています。お試しフリープランの方は無料で利用できるため、気軽に試してから契約印&実印プランを利用するのがいいでしょう。
タイムスタンプや電子署名の有効期限をよく理解しておこう
電子契約書はタイムスタンプと電子署名が付与されていることで、信頼性があり法的効力を持ちます。
しかし、タイムスタンプや電子署名には有効期限が設定されているため注意が必要です。有効期限切れになると法的効力が失われ、改ざんのリスクも高まります。
長期契約で利用する際には、10年までなら電子署名だけでなくタイムスタンプも一緒に付与することで対応可能です。10年を超える契約でも長期署名を利用すれば、10年ごとに繰り返しタイムスタンプが付与されます。これにより20年や30年といった期間の契約でも対応可能です。
電子契約を利用する際には、このような対応や電子署名の有効期限についてよく理解しておきましょう。