課税文書に該当する書類は、文書の種類や契約金額に応じて印紙税を納めなくてはいけません。印紙税の課税対象となる書類は20種類あり、また印紙税を支払うための収入印紙は31種類存在しており、金額は1円〜10万円と大きく異なります。取引額が大きい契約を取り交わす企業にとっては印紙税も負担になります。
そこで本記事では、印紙税の節約方法について解説します。印紙税について正しい知識を身につけることも節税対策につながりますので、ぜひ参考にしてください。
目次
印紙税節約の前に知っておくべきこと
印紙税を節約するためには、まず印紙税について正確に理解する必要があります。印紙税に対して正しい知識を身につけていないと、大きなトラブルを招きかねません。また、必要ない文書に収入印紙を貼付してしまうケースもあるでしょう。
- 印紙税の納付手続き
- 印紙税が必要になる文書かどうか
- 過怠税について
以上の項目について、印紙税の正しい知識を詳しく解説します。
印紙税の納付手続き
印紙税は「課税文書に必要な金額の収入印紙を貼付する」ことで納付義務を完了します。
印紙税の納付手続きは、以下のとおりです。
- 文書の課否判定
- 文書の所属の決定
- 税額確定
- 印紙の添付割印
まずは「課税文書かどうか」を判断します。
次に行う作業が、「所属の決定」です。課税文書と言っても20種類に分類されているので、どの分類に該当するのか明確にしましょう。
文書の種類と契約金額に応じて必要な印紙税額が確定します。
印紙税額を誤るとリスクを負ってしまいますので、国税庁HPの「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」などを参考に必要な収入印紙を用意してください。
課税文書は「印紙の添付割印」で完成します。この時点で印紙税を納める義務が完了します。
印紙税が必要になる文書かどうか
印紙税はすべての文書に必要になるわけではありません。
国税庁が印紙税の対象にしているのは、下記の20種類の文書です。
- (1)不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約
(2)地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
(3)消費貸借に関する契約書
(4)運送に関する契約書(傭船契約書を含む。)
- 請負に関する契約書
- 約束手形又は為替手形
- 株券、出資証券若しくは社債券又は投資信託、貸付信託、特定目的信託若しくは受益証券発行信託の受益証券
- 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書
- 定款
- 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。)
- 預貯金証書
- 倉荷証券、船荷証券又は複合運送証券
- 保険証券
- 信用状
- 信託行為に関する契約書
- 債務の保証に関する契約書(主たる債務の契約書に併記するものを除く。)
- 金銭又は有価証券の寄託に関する契約書
- 債権譲渡又は債務引受けに関する契約書
- 配当金領収証又は配当金振込通知書
- (1)売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書
(2)金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの
- 預貯金通帳、信託行為に関する通帳、銀行若しくは無尽会社の作成する掛金通帳、生命保険会社の作成する保険料通帳又は生命共済の掛金通帳
- 第一号、第二号、第十四号又は第十七号に掲げる文書により証されるべき事項を付け込んで証明する目的をもつて作成する通帳(前号に掲げる通帳を除く。)
- 判取帳
上記の文書を作成する場合、金額に応じて収入印紙を貼付して印紙税を納めなくてはいけません。
過怠税について
印紙税において注意しておきたい点は、「貼り忘れ」や「額面の間違い」です。なぜなら、印紙税は国が定める納税義務であり、誤った方法で収入印紙を取り扱うと大きなリスクを伴うからです。
印紙税について必ず覚えておいて欲しい点は、「過怠税」です。過怠税の納付額は、本来納付すべき印紙税の3倍となります。大きな契約を交わし、印紙税が60万と確定した場合、過怠税が発生すると3倍の180万円を納付しないといけなくなってしまいます。
印紙税は上手に節約できますが、まずは「必要文書には収入印紙を貼り忘れない」ことを念頭に置いておきましょう。
印紙税の節約方法5選
印紙税を節約する有効な方法を5選紹介します。今後の経営で役立つ可能性がありますので、ぜひ参考にしてください。
電子契約で締結する
印紙税は紙の契約にかかる税金で、電子契約で結ばれた取引では収入印紙の貼付は不要になります。そのため同じ内容の契約であっても電子契約で成立させれば印紙税が不要になる点は、企業にとって大きなメリットになるでしょう。
従来の紙を使った契約の方が安全なのではと考える方もいらっしゃいますでしょう。しかし、法律上「契約は口頭でも成立する」とされています。
参考:口約束での契約に法的な効力はある?注意点やトラブルの防止法も解説!|GMOサイン
もちろん口頭での契約は後々のトラブルを考えるとリスクは高いのですが、電子契約であれば万が一のトラブルの際も証明力が高いことは明らかです。
参照:e-Gov法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律」
電子契約の導入においては、リスクよりもメリットの方が大きくなると判断できる企業は多いと思います。印紙税の節約だけでなく、作業の効率化においても有効な方法になるので、ぜひ電子契約の導入を考えてみてはいかがでしょうか。
契約書の金額の表記を変える
第1号文書、第2号文書、第17号文書であれば、金額の表記を変える節税対策も有効です。第17号文書に該当する領収書を例に挙げて解説します。
第17号文書の印紙税額は、以下のとおりです。
契約金額 | 印紙税額(1通または1冊につき) |
---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円以上200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 600円 |
300万円を超え500万円以下 | 1,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 2,000円 |
例えば、税抜価格48,000円の買い物をした場合、税込金額は52,800円になります。
節税対策として、以下の表記方法の違いをご覧ください。
- 商品代金52,800円(消費税込み):印紙税200円
- 商品代金52,800円(税抜金額48,000円):非課税
- 商品代金52,800円(うち消費税等4,800円):非課税
同じ金額を支払っても、表記方法によって課税対象の領収書と非課税に分類される領収書に分類されます。20種類すべての文書が対象になるわけではありませんが、文書の種類が該当していたら表記方法を変えれば節税につなげられます。
契約書のコピーを利用
契約書は、基本的に原本を当事者双方に用意します。2通分の収入印紙が必要になりますが、実は原本もコピーもほぼ同じ効力を持っています。そのため片方は原本、片方はコピーで契約書を交わす場合があります。しかし、契約書のコピーを利用する場合には、以下のトラブルに注意が必要です。
- トラブルが起きた際に、原本がないと不利になる可能性がある
- 原本が紛失した場合、原本の存在があったのか問われる場合がある
- 原本にしっかり収入印紙が貼付されていなかったら、ペナルティを受ける可能性がある
印紙税を抑えられれば節約にはなりますが、双方の同意が必要となり、またコピーするリスクを理解しておく点が重要です。リスクを回避するために、コピーを使う際には注意点に気をつけておきましょう。
トラブルを避けるためには、「印紙税を折半する方法」も良いでしょう。原本を保管する方だけが印紙税を負担すると、コピーする方だけが得することになります。この場合、何かしらのトラブルが起きたときに「印紙税を負担していない」など立場が不利になるケースが考えられます。そのため、双方が公平になるように負担を分けることをおすすめします。
国外(海外)で契約を締結する
印紙税は日本の法律で定められています。そのため日本国外で作成された文書は日本の法律とは関係なく、収入印紙の貼付は不要になります。このとき注意しておきたいのは、「どこで成立した契約なのか」という点です。
印紙税法基本通達第44条2項(3)号では、「意思の合致を証明した時」、両者の署名押印が揃った時点を契約成立の場所としています。契約を交わす中で複数の当事者が関わっていても、最後に完成させた場所が契約締結の場所になるわけです。日本で話を進めることがあっても、最後に署名押印が海外で行われた契約は日本国外で締結された契約になり、収入印紙は不要になります。
反対に、海外で進めた話でも最後に署名押印した場所が日本であれば、必要な収入印紙を貼付する義務が発生します。海外で契約を締結させる節税方法は簡単ではありませんが、契約の中で海外に行かなくてはいけない場合、知識として身につけておくと節税につなげられます。
契約書2通分とも収入印紙相当額を相手方に負担させる
印紙税は基本的に双方で負担します。
請負に関する契約書に該当する第2号文書の印紙税額は、以下のとおりです。
契約金額 | 印紙税額(1通または1冊につき) |
---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円以上200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
引用:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
大口契約を取り決める場合、契約金額が10億円を超え50億円以下になるとき必要になる印紙税額は40万円となります。大口契約の場合、万が一のトラブルを考えると双方に原本を保管する方が安全になり、双方が40万円の収入印紙を購入します。契約を取り決める中で、お互いが納得できることを考えると収入印紙は双方で用意した方が良いでしょう。
しかし、法律上では収入印紙の負担はどちらが行っても良いことになっています。つまり、10億円を超え50億円以下の契約に必要な40万円の収入印紙は片方が2通分用意しても問題ありません。しかし双方とも節税したい気持ちはあるはずので、片方が2通分の収入印紙を用意する方法は相手方が納得しないとできません。契約を交わす中で、相手方が合意、納得の上でできる節税方法なので、押し付けは避けましょう。
印紙税を効率よく節約するなら「電子契約」の導入がおすすめ
印紙税を節約する5つの方法は、以下のとおりです。
- 電子契約で締結する
- 契約書の金額の表記を変える
- 契約書のコピーを利用
- 国外(海外)で契約を締結する
- 契約書2通分とも収入印紙相当額を相手方に負担させる
知識として身につけておくと、状況によって取り入れられる節税方法もあるのではないでしょうか。
注意して欲しい点は、契約書のコピーや相手方に2通分の収入印紙を用意してもらう方法は、発生し得るトラブルを考えておくということです。すべての節約方法がどの契約でも利用できるわけではありませんが、「電子契約」であればリスクを抑えながら節税につなげられます。
電子契約は契約場所や契約金額を気にせずに、双方ともwin-winの関係で契約を締結させられる非常に便利な印紙税の節約方法です。電子契約の導入を考える企業が増えるのも、契約においてメリットが大きいからです。ぜひ、この機会に電子契約の導入を進めてみてはいかがでしょうか。