2020年から始まった新型コロナウイルス感染症による外出規制に加え、2022年5月の不動産の電子契約解禁の流れによって、不動産契約の電子化は徐々に浸透してきています。不動産取引の電子化に伴って、トレンドに乗り遅れないように導入方法など、ポイントを抑えておきたいと考えている関連会社も多いのではないでしょうか。
本記事内では、不動産の電子契約について、基本的な概要やランニングコスト、メリットやデメリットについて解説しています。不動産の電子契約について、詳細が知りたい方は、ぜひ記事内容をご確認ください。
目次
不動産取引の電子契約化の全体像を紹介
デジタル改革関連法整備の一環として、2022年5月に宅地建物取引業法が改正され、不動産関連文書の電子化が解禁されました。以前までの紙中心の書面取引から電子取引への移行が実現します。基本的な概要や、コストなどを以下で紹介します。
- 不動産取引の電子化で対応できる契約書類
- 賃貸・売買契約書の電子化とDXの流れ
- 電子契約にかかる費用
不動産取引の電子化で対応できる契約書類
以下の書類の電子化が可能になりました。
媒介契約書 | 売主が物件の売却に関して、不動産会社に依頼する業務・サービス内容や仲介手数料などが明記された契約書 |
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重要事項説明書 | 取引物件について宅地建物取引士が買主・借主などの当事者に説明する事項が記載された書類 |
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賃貸借契約書 | 賃貸物件を借りる際の契約書 |
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定期借地権設定契約書 | 期間を定めて土地を貸す時の権利について記載した契約書 |
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定期建物賃貸借契約書 | 契約期間の満了により賃貸借関係が終了する賃貸借契約について記載された契約書 |
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電子契約では、宅建士の押印は不要です。従来、買主と売主が負担していた印紙代は必要なくなりました。したがって、対面や郵送で書類を取り交わす必要はありません。デジタル上で手続きが完了します。
電子契約を遂行するにあたって、以下の3つの点で事前に相手の承諾が必要です。
- 重要事項説明書の電子交付
- IT重説(ITツールを利用した非対面の重要事項説明)
- 電子契約を結ぶ
電子契約を進めるにあたっては、基本的に双方の合意が必要です。相手側に電子契約に対応できる端末がなければ、以前と同じく紙での対応となります。
賃貸・売買契約の契約書電子化とDXの流れ
2022年5月、デジタル改革関連法整備の一環として、借地借家法と宅地建物取引業法(宅建業法)が改正されました。
デジタル改革関連法のポイントは、書面化義務の緩和と押印義務の廃止です。
借地借家法や宅建業法の改正で申込書、重要事項説明書、賃貸借契約書などの重要書類が電子契約で行えるようになったのは大きな動きです。これに関連して、2021年6月に改正された特定商取引法によってクーリング・オフの通知も電子化対応が可能となっています。
新型コロナウイルス感染症による外出規制によって、非対面契約の需要が増加したことも電子契約の需要アップにつながりました。不動産取引の電子化は社会のDX化の推進とともに、さらに拡大していくでしょう。
電子契約にかかる費用
電子契約を導入し、運用するための主な費用は以下の3点です。
- 電子契約サービスの利用料金
- 電子証明書の取得費用
- 自社ITシステムの構築と保守管理の費用
気になる電子契約サービスの利用料金相場は、事業規模と契約形態にもよりますが、およそ数千円〜10万円程度です。
主な料金体系は以下の2種類に分けられます。
- 月額基本料金+契約締結ごとの従量課金制
- アカウント数に応じた月額料金
その他、電子署名を行うために必要な電子証明書の取得費用が必要です。
電子証明書の取得費用は1枚あたり数千円から数万円で、以下のケースで費用が発生します。
- 消費者型電子契約サービスの利用
- 自社ITシステムを構築する場合
電子契約を導入すると、印紙代がかからない代わりにシステムの月額利用料や、電子証明書が必要となる点に注意が必要です。
事業規模が大きく、契約数も多い場合は大きなコスト削減が期待できます。それに加え、業務の効率化という大きなメリットも得ることができます。
電子契約による不動産取引の契約締結までの流れ
電子契約による不動産取引の締結の流れを以下で紹介します。
STEP
IT重説
IT重説は、ZoomやGoogle Meetなどのビデオ会議アプリを使い、重要事項の説明を行います。わざわざ店舗まで出向く必要がないため、移動のための手間がかかりません。
IT重説を行う場合、以下の項目を事前に確認しておく必要があります。
- 相手から承諾を得る
- 承諾後でも書面の変更ができることを説明する
- 相手が承諾した記録を残す
- 電子署名を記した重要事項説明書を事前に相手に送信しておく
- 書面の変更がないかを相手が確認できるか
STEP
契約書の電子交付
電子契約の内容を契約者間で確認します。今までの対面式契約と同じく、電子契約でも内容の確認を行います。
STEP
電子署名
問題がなければ電子署名を行います。電子署名は、押印箇所に自分の名前を入力することで完了します。
契約書類の電子化で得られるメリットと注意点
電子契約は手続きの簡素化で大きなメリットを得ることができます。具体的に、どのようなメリットがあるのか、また電子契約の注意点などもみていきましょう。
メリット
考えられるメリットは以下の4点です。
・必要な契約書類をすぐに探し出せる
・物理的な保管場所が必要ない
・契約手続きに手間がかからない
・印紙税がかからない
以下、項目ごとに詳細を説明します。
必要な契約書類をすぐに探し出せる
デジタル管理全般に言える大きなメリットは「検索性」です。書類管理では、いくら整理して管理されていても、古い書類を書棚の奥から探し出すのは一苦労です。一方、デジタル管理では、適切に管理されてさえいればすぐに探し出すことができます。
社会全体がデジタル化を推進している大きな理由の一つに、管理のしやすさが挙げられます。特定の人しか書類の保管場所を知らないという、管理の属人化を回避できる点も見逃せないメリットです。
物理的な保管場所が必要ない
物理的な保管場所の必要がない点も、デジタル管理全般に挙げられるメリットです。公的機関の書類管理では、わざわざ大きな倉庫を借りて、定期的に書類を搬入し、管理を委託している現実があります。
クラウドなどのデジタル管理へ移行すると、搬入や管理費用の削減、業務効率の改善も可能です。書類に関わる手間や費用を削減するだけでも、相当な生産性アップにつながります。
契約手続きに手間がかからない
電子契約では、紙の書類に押印やサインをすることがありません。そのため、紙の書類を郵送する、押印のためだけに来店する、などの手間を省くことができます。
契約に複数の人間がかかわる不動産取引では、特に電子契約のメリットを享受することができるでしょう。紙の書類をその都度回覧していては、契約締結までに多くの時間を費やしてしまいます。
印紙税がかからなくなる
書面での契約では、その都度印紙代がかかりますが、電子契約では必要ありません。
電子契約でも電子契約サービスの月額費用や電子証明書の取得費用はかかりますが、印紙代ほど高額ではなく、契約の件数が多くなればなるほど、電子契約のメリットも大きくなります。電子契約サービスを利用する際は、事業規模に見合ったサービスを選ぶようにしましょう。
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注意点
電子契約に移行する時に注意すべき点を3点、ピックアップしました。
・電子契約サービスのコスト
・セキュリティの問題
・取引先や顧客の理解
以下、項目ごとに詳細を説明します。
電子契約サービスのコスト
電子契約を取り交わすには、電子契約のフォーマットを提供するサービス会社と契約し、月額費用を払い続ける必要があります。
前述の通り、電子契約サービスには、月額制や基本料金+従量課金制など、さまざまな種類がありますので、事業規模に合わせて最適なプランを選択しましょう。
合わせて電子証明書の費用もかかりますので、事業規模とランニングコストのバランスをよく考えなければいけません。
セキュリティの問題
高額取引が多い不動産取引では、情報セキュリティが重要です。近年頻発しているサイバー攻撃による情報漏えい対策は、万全を期したいところです。サイバー攻撃は電子契約サービスを提供する会社に対して行われますので、電子契約サービスを選ぶ際は、万全なセキュリティ対策を行うサービス会社を選ぶようにしましょう。
社内でデジタル管理を行う場合、なりすましを防ぐために、データアクセスの権限を設定する対策も有効です。
取引先や顧客の理解を得る必要がある
契約の電子化には、相手方の理解が不可欠です。依頼した結果、承諾が得られないケースも想定されます。個人だけでなく、仲介業者など、関係する企業への配慮も必要です。
全てを電子契約にしてしまうと、取引ができなくなるケースが出てきますので、書面での対応も柔軟に行いましょう。
ブロックチェーン技術と電子契約
不動産はDX化の分野において大きな可能性を秘めています。将来は、人が介在しない契約も実現するかもしれません。暗号通貨に使われるブロックチェーン技術は、不動産のDX化のカギとなる重要技術の一つです。
ブロックチェーンが持つ可能性を以下の2つのポイントで紹介します。
- 透明性とセキュリティの高さ
- スマートコントラクトの活用
それぞれの項目にて、詳細を説明します。
透明性とセキュリティの高さ
ブロックチェーンとは、帳簿のデジタル技術であり、不動産の登記は不動産の状況と権利関係を不動産登記簿に記録、公示することです。
不動産の登記は、帳簿のデジタル技術であるブロックチェーンによって代替えできる領域です。
ブロックチェーンの、データの改ざんが極めて難しいという強みは、公正取引を基本とする不動産登記簿の要件を満たしています。間取りや修繕歴、家賃の支払い状況、所有権や抵当権の有無、取引価格といった重要な不動産データを誰でも確認できる透明性の高さは、公正取引を揺るぎないものとしてくれるでしょう。
スマートコントラクトの活用
ブロックチェーンの特徴の一つに、スマートコントラクトとの相性の良さが挙げられます。
スマートコントラクトとは、プログラム化して自動的に実行できる契約のこと。
執行する条件と契約の内容をあらかじめ定義してプログラムしておくと、イベントの発生に合わせて、自動的に契約が執行されます。代金の決済や所有権の移転もスマートコントラクトで対応可能に。電子契約と組み合わせると、人が介在せずに契約を進めることもできるようになります。
賃貸契約や売買仲介に見られる、不動産取引の属人化による問題は、スマートコントラクトや電子契約が本格化するにつれて、次第になくなっていくでしょう。
まとめ 公正取引のカギとなる不動産取引の電子契約
電子契約とは紙を使わずにデジタルで取り交わす契約を指します。契約のたびに紙を使っていた不動産取引に、電子契約を導入すれば、メリットは計り知れません。電子契約とIT重説を合わせると、書類の郵送も不要で、来店することもなく契約の締結ができるようになります。
その他、印紙代がかからないメリットもあります。電子契約サービスの利用料や電子証明書の取得費用は別途かかりますが、少なからずコストの削減にもつながります。
不動産の電子契約によるメリットは、省人化や工数の削減でも体感できるでしょう。ブロックチェーンの技術と電子契約の組み合わせによるDX化にて、将来は人が介在しない不動産取引が実現する可能性も秘めています。DX化と相性の良い不動産取引は、今後もデジタル化が推進されていくでしょう。
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