企業で新たに社員を雇い入れる際には、さまざまな手続きが必要です。良い人材を採用できて嬉しい反面で、手続きの負担が大きいと感じている人事担当者も多いでしょう。特に新卒採用の時期には大勢の新入社員がいるため、それだけ人事担当者の負担も大きくなります。
入社書類を電子化すると、人事担当者の負担が軽減できます。ほかにもさまざまなメリットがあるため、まだ紙の書類で手続きをしている場合は、電子化を検討してみるのがおすすめです。
本記事では、入社書類の電子化について方法やメリットを中心に解説していきます。
目次
入社手続きのワークフロー
最初に、入社手続きのワークフローについて確認していきましょう。
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法定三帳簿と年次有給休暇管理簿の作成
入社手続きの際には、法定三帳簿と年次有給休暇管理簿を作成しなければなりません。法定三帳簿というのは、労働者名簿と賃金台帳、出勤簿のことです。労働者名簿と賃金台帳に関しては労働基準法107条と108条に規定が設けられています。また、賃金台帳に関しては明文の規定はありません。しかし、労働基準法109条で規定されている「その他労働関係に関する重要な書類」に該当するとされています。
(労働者名簿)
第百七条 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
② 前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。
(賃金台帳)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
年次有給休暇管理簿は、2019年4月から働き方改革で年次有給休暇の付与が義務化されたことに伴い、作成と保管が義務化された書類です。労働基準法施行規則第24条の7に規定されています。
第二十四条の七 使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二及び第五十六条第三項において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない。
引用元:労働基準法施行規則 | e-Gov法令検索
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社会保険の手続き
社会保険は、厚生年金保険と健康保険のことです。健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を作成し、健康保険組合または年金事務所に提出する必要があります。提出期限が雇い入れから5日以内と短いため、すぐに作成しなければなりません。
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雇用保険の手続き
雇用保険の手続きでは、雇用保険被保険者資格取得届を作成して公共職業安定所に提出する必要があります。中途採用で既に雇用保険に加入していたことがある社員の場合には、手続きを行う際に被保険者番号の確認が必要になります。そのため、本人から雇用保険被保険者証を会社の方に提出してもらいましょう。
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税金の手続き
所得税に関して、採用者から給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を記載して会社に提出してもらう必要があります。中途採用の場合には、以前の勤務先の源泉徴収票も必要です。
住民税に関しては、給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書を作成して市区町村に提出しなければなりません。
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社内で必要な手続き
行政機関に提出する書類や法律上作成が義務付けられている書類だけでなく、社内で必要な手続きも済ませなければなりません。たとえば社員証を作成し、メールアドレスなども準備しておく必要があります。
入社手続きが人事担当者にとって負担が大きい理由
入社手続きは、次のような理由から人事担当者にとっては負担が大きいといわれています。
必要な書類が多い
入社手続きをする際に、かなりの数の書類を作成しなければなりません。新卒採用の時期には入社人数も多いため、人事担当者にとっては激務になります。
時間的余裕がない
行政機関に提出しなければならない書類には、提出期限が設けられています。社会保険の手続きなど、提出期限が短いものもあり、時間的余裕がない中で済ませなければなりません。その上、不備やミスがあれば書き直しになってしまいます。
また、書類の種類によって提出先も別々です。窓口に持参するにしても、郵送するにしても手間がかかってしまいます。
厳重な管理が求められる
入社書類には個人情報が記載されています。管理の仕方が良くないと情報流出などのリスクが高まるため、厳重に管理しなければなりません。法律上、一定期間の保管が義務付けられている書類もあるため、必要なときにはすぐに取り出せるようにもしておく必要があります。
入社書類の電子化で得られるメリット
入社書類を電子化することで、次のようなメリットが得られます。
書類作成の工数を減らせる
入社書類を紙で作成すると、どうしても工数がかかります。印刷をする際にもミスや漏れなどがないかどうか1つずつ確認しなければなりません。手書きで対応が必要な箇所もあるでしょう。
入社書類を電子化すれば、省略できる部分も多いです。たとえば、一部のデータを内定者からオンラインで入力してもらい、そのまま使用することができます。使用するシステムによっては、ミスや漏れを防止できる機能も備わっていることがあり、工数を大幅に削減できるでしょう。
書類の提出が楽になる
紙の書類だと、提出方法としては行政機関の窓口に持参して提出するか、郵送するかのとちらかです。郵送の方が手間がかかりませんが、それでも提出先ごとに封筒に入れたり宛先を記載したりする作業が必要になります。
入社書類を電子化すれば、オンラインでかんたんに提出可能です。そのため、封筒に入れたり宛先を記載したりするような作業は必要ありません。
進捗状況を可視化できる
入社書類の電子化で使用するシステムによっては、入社手続きがどこまで完了しているのか把握可能です。紙の書類を作成するやり方をしている場合、全体の進捗状況がわかりづらい状況も考えられます。入社書類を電子化することで、進捗状況を可視化できるため、人事部門の責任者にとって、管理がしやすくなるでしょう。
セキュリティを強化できる
入社書類を紙で作成すると、紛失などのリスクもあります。紛失が原因で第三者の手に渡ってしまい、個人情報の流出などにつながる可能性もあるでしょう。
入社書類を電子化すれば、データはあらかじめ設定されている場所に保存することができます。
また、データへのアクセス権限の設定も可能です。アクセス権限のない人はデータを見ることができないため、個人情報が守られます。アクセス権限のある人がデータにアクセスした場合でも履歴が残りますから、いつ誰がアクセスしたのか後から確認可能です。そのため、データの流出などのリスクは抑えられるでしょう。
コストを削減できる
入社書類を電子化して紙で書類を提出したり保管したりしないようになれば、コストも削減できます。例たとえば、用紙代や印刷代などはかからなくなるでしょう。行政機関への提出はオンラインでできるため、封筒代や切手代などもかかりません。
テレワークに対応できる
入社書類を紙で作成する場合、管理の都合上、テレワークで実施するのは難しいでしょう。テレワーク導入済みの会社でも、人事部門では出社が必要というところも多いかもしれません。
その点、電子化して紙の書類を扱わないようにすれば、入社手続きをテレワークで行うこともできるようになります。入社書類のデータはサーバーに保存されるため、オフィス以外の場所からでも作成や内容の確認などが可能です。
入社書類の電子化に必要なもの
入社書類を電子化するには、次のようなものが必要です。
労務管理システム
労務管理システムというのは、人事労務を簡素化して効率的に行えるようにするためのシステムです。たとえば、入社手続きや退社手続き、給与計算、勤怠管理、年末調整、年次有給休暇管理、社員情報管理などの機能が備わっています。
労務管理システムの種類によって備わっている機能が異なるため、自社に必要な機能が備わっているものを選ぶことが大切です。また、労務管理システムによっては、他のシステムと連携できるものもあります。
電子証明書
電子証明書というのは、本人であることを電子的に証明するためのものです。認証局(第三者)を介して証明する仕組みで、紙の書類でいう印鑑証明のようなものと捉えておくといいでしょう。入社手続きに必要な書類を電子化するのであれば、電子証明書を取得しておかなければなりません。行政機関にオンラインで提出する際に、電子証明書が必要になります。
また、法務省の商業登記電子認証ソフトを使用して電子証明書を取得可能です。
採用者に情報を入力してもらえる体制
採用者から必要な情報をオンラインで直接入力してもらうことができれば、人事担当者が手入力する必要がなくなります。そのため、採用者から情報を入力してもらえる体制を整えておきましょう。
入社書類を電子化する際の注意点
入社書類を電子化する際には、次のような点に注意しましょう。
規模の小さい企業ではメリットが薄い
入社手続きの電子化は、新卒採用を行っている中規模以上の企業にとってはメリットを実感しやすいでしょう。しかし、企業規模が小さいと、あまりメリットを実感できない場合もあります。小規模な企業だと、労務管理システムの導入でかかるコストの方が大きく感じられてしまうかもしれません。
法律上のルールに則って行う必要がある
書類を電子化する際には、電子帳簿保存法などで規定されているルールに則って行わなければなりません。ルールに反しているやり方をしている場合には、有効なものとして扱われない場合もあるため注意しましょう。
また、雇用契約書や労働条件通知書など、電子化するにあたって労働者の同意が必要な書類もあります。
紙の書類が一部必要になる場合もある
入社書類の電子化をすれば、入社手続きがすべてペーパーレス化できるとは限りません。一部の書類に関しては、従来までと同様に紙の書類の作成が必要になる場合もあります。
入社書類を電子化して人事担当者の負担を減らそう
新入社員の入社手続きでは、多くの書類を作成して提出しなければなりません。人事担当者にとって負担が大きいですが、電子化することで簡素化されて負担も軽減できます。コストの削減やセキュリティの強化などメリットは大きいです。
電子化の際には労務管理システムを導入し、電子証明書を取得する必要があります。導入費用がかかりますが、中規模以上の企業ならメリットを実感しやすいです。入社手続きの負担が大きいと感じているのであれば、ぜひ入社書類の電子化を検討してみましょう。